担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.2
2024.12.12
VOL.02 短期賃借権保護の廃止
前記の改革のうち、まず民法 395条が改正され、短期賃借権の保護制度が廃止された。
これに変って明渡猶予制度が設けられ、平成16年4月1日から施行されたため、これ以降の競売事件については原則として短期賃借権は保護されないこととなった。
したがって、競落人は短期賃借権を引き受けることが原則ないので、これまでのような短期賃借権の負担による減価を評価上考慮することはなくなった。
ところで、この改正によって何が変ったかは良く解らない。
確かに短期賃借権保護制度による悪質な執行妨害は世間を賑したが、実務者の立場からみればホンの一部の問題であったように思えてならない。
死刑制度があってもほとんど毎週のように殺人事件が発生している現状をみると、死刑制度は全くと言って良い程殺人の抑止力とはなっていない。
いくら法改正をしても、法を守る気のない人に向っては馬の耳に念仏である。
短期賃借権保護の廃止による一番の被害者は、一般市民である。
今のところ社会を賑す大きな問題とはなっていないが、転居先のない賃借人である田舎の老人は、明渡猶予期間の6ヶ月を過ぎると真冬でも家から放り出されることになる。
ごく一部の不心得者のために法改正を行なった訳であるが、このことによって経済的弱者である賃借人たる一般市民が路頭に迷わないことを祈るだけである。
一説によれば、この改正を利用して老朽アパートやビルの建替を意図している輩がいるとのことである。
抵当権者と所有者が手を組めば、立退きに反対する賃借人を何の保証もなく追い出すことが可能となる。
改正民法 395条が賃借人の追い出しのために悪用されることがないという保証はない。
前記の改革のうち、まず民法 395条が改正され、短期賃借権の保護制度が廃止された。
これに変って明渡猶予制度が設けられ、平成16年4月1日から施行されたため、これ以降の競売事件については原則として短期賃借権は保護されないこととなった。
したがって、競落人は短期賃借権を引き受けることが原則ないので、これまでのような短期賃借権の負担による減価を評価上考慮することはなくなった。
ところで、この改正によって何が変ったかは良く解らない。
確かに短期賃借権保護制度による悪質な執行妨害は世間を賑したが、実務者の立場からみればホンの一部の問題であったように思えてならない。
死刑制度があってもほとんど毎週のように殺人事件が発生している現状をみると、死刑制度は全くと言って良い程殺人の抑止力とはなっていない。
いくら法改正をしても、法を守る気のない人に向っては馬の耳に念仏である。
短期賃借権保護の廃止による一番の被害者は、一般市民である。
今のところ社会を賑す大きな問題とはなっていないが、転居先のない賃借人である田舎の老人は、明渡猶予期間の6ヶ月を過ぎると真冬でも家から放り出されることになる。
ごく一部の不心得者のために法改正を行なった訳であるが、このことによって経済的弱者である賃借人たる一般市民が路頭に迷わないことを祈るだけである。
一説によれば、この改正を利用して老朽アパートやビルの建替を意図している輩がいるとのことである。
抵当権者と所有者が手を組めば、立退きに反対する賃借人を何の保証もなく追い出すことが可能となる。
改正民法 395条が賃借人の追い出しのために悪用されることがないという保証はない。
担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.1
2024.11.28
VOL.01 担保執行法制の改正の経緯
担保執行法制の改正については既に周知のことと思われるが、ここであらためて改正に至る経緯とその後の状況並びに今後の動向について検討してみたい。
経済戦略会議は、平成11年2月26日付の「日本経済再生への戦略」(答申)の中で、最低売却価額制度の廃止、短期賃借権保護の廃止、競売物件の内覧等を提言した。
その後各界を巻き込んで激論が交されたが、平成14年3月には司法制度改革の一環として最低売却価額制度の廃止、短期賃借権保護の廃止、内覧実施が政策課題として決定された。
この間、評価人候補者のほとんどを占める不動産鑑定士及びその全国団体である(社)日本不動産鑑定協会は、全くと言って良い程関心を持っていなかった。
かく言う筆者もその一人で、全くお恥ずかしい話である。
個人的には平成14年秋頃からこれらの問題の渦中に引き込まれてから司法制度改革の嵐を肌に感じ、評価人としての危機感を持ったのは事実である。
司法競売の利点は多々あるが、小泉改革の大合唱の前に、結局は経済戦略会議の提言どおりに改革は実現した。
担保執行法制の改正については既に周知のことと思われるが、ここであらためて改正に至る経緯とその後の状況並びに今後の動向について検討してみたい。
経済戦略会議は、平成11年2月26日付の「日本経済再生への戦略」(答申)の中で、最低売却価額制度の廃止、短期賃借権保護の廃止、競売物件の内覧等を提言した。
その後各界を巻き込んで激論が交されたが、平成14年3月には司法制度改革の一環として最低売却価額制度の廃止、短期賃借権保護の廃止、内覧実施が政策課題として決定された。
この間、評価人候補者のほとんどを占める不動産鑑定士及びその全国団体である(社)日本不動産鑑定協会は、全くと言って良い程関心を持っていなかった。
かく言う筆者もその一人で、全くお恥ずかしい話である。
個人的には平成14年秋頃からこれらの問題の渦中に引き込まれてから司法制度改革の嵐を肌に感じ、評価人としての危機感を持ったのは事実である。
司法競売の利点は多々あるが、小泉改革の大合唱の前に、結局は経済戦略会議の提言どおりに改革は実現した。
鑑定評価業務の法律的性質について ~ Vol.4
2024.11.21
VOL.04 弁護士業務と鑑定評価業務
弁護士業務を入札にすべしという声は、寡聞にして知らない。
これは、芸術家と同様に発注者が事前的にも事後的にも弁護士業務の内容をチェックすることができないからである。
発注者にチェック能力があるのなら、弁護士は不要である。
一般的に弁護士業務は請負ではなく委任と解されている。
発注者ができるのは弁護士の人選のみで、委任行為の良し悪しを委託金額との関連で判断することはできない。
したがって、発注者は弁護士が法令等に違反していない限り、全てを受け入れなければならないことになる。
たとえ思わしくない結果に終ったとしても、請負契約のように瑕疵担保責任を追及することはできない。
だがしかし、本当に弁護士業務は入札になじまないのであろうか。
弁護士業務は、鑑定評価業務と異なり、依頼者に忠実であれば良く、時によっては黒でも灰色ないし白色と主張しなければならない。
弁護士業務が社会正義に照らして客観的・公正・中立に行わなければならないのなら、犯罪者の弁護を引き受けることはないであろうし、裁判官も検察も不用ということになる。
他方、鑑定評価業務は、依頼者に忠実になることはできない。
求められるのは社会的にみて客観的かつ公正・中立な立場における価値判断である。
したがって、鑑定評価業務の内容は弁護士業務の内容よりはるかに委任に近い法的性質を有していると考えられる。
弁護士業務の本質が委任で請負契約になじまないのなら、より客観的・公正・中立な立場での判断を求められる鑑定評価業務が請負契約になじむと考えるのは笑止である。
鑑定評価業務が定性・定量的で、事前・事後のチェックが可能なら、単なる計算業務となる。
鑑定評価は単なる計算業務ではない。
評価者によって結果(鑑定評価額)は異なることもあるし、請負金額によって結果(鑑定評価額)の良し悪しを判断することもできない。
資格があれば全て同じ結果が期待できるのなら、名医も名弁護士もいないことになる。
資格は業務の最低限の資質を要求するものであり、ベストを満たしている訳ではない以上資格者によってバラツキが出るのはやむを得ないことである。
いずれにしても、鑑定評価業務の本質は依頼者に代って客観的・公正・中立な立場で価値判断を行うものであり、限りなく委任に近い性質を有していることから、請負契約になじまないものと考えるものである。
弁護士業務を入札にすべしという声は、寡聞にして知らない。
これは、芸術家と同様に発注者が事前的にも事後的にも弁護士業務の内容をチェックすることができないからである。
発注者にチェック能力があるのなら、弁護士は不要である。
一般的に弁護士業務は請負ではなく委任と解されている。
発注者ができるのは弁護士の人選のみで、委任行為の良し悪しを委託金額との関連で判断することはできない。
したがって、発注者は弁護士が法令等に違反していない限り、全てを受け入れなければならないことになる。
たとえ思わしくない結果に終ったとしても、請負契約のように瑕疵担保責任を追及することはできない。
だがしかし、本当に弁護士業務は入札になじまないのであろうか。
弁護士業務は、鑑定評価業務と異なり、依頼者に忠実であれば良く、時によっては黒でも灰色ないし白色と主張しなければならない。
弁護士業務が社会正義に照らして客観的・公正・中立に行わなければならないのなら、犯罪者の弁護を引き受けることはないであろうし、裁判官も検察も不用ということになる。
他方、鑑定評価業務は、依頼者に忠実になることはできない。
求められるのは社会的にみて客観的かつ公正・中立な立場における価値判断である。
したがって、鑑定評価業務の内容は弁護士業務の内容よりはるかに委任に近い法的性質を有していると考えられる。
弁護士業務の本質が委任で請負契約になじまないのなら、より客観的・公正・中立な立場での判断を求められる鑑定評価業務が請負契約になじむと考えるのは笑止である。
鑑定評価業務が定性・定量的で、事前・事後のチェックが可能なら、単なる計算業務となる。
鑑定評価は単なる計算業務ではない。
評価者によって結果(鑑定評価額)は異なることもあるし、請負金額によって結果(鑑定評価額)の良し悪しを判断することもできない。
資格があれば全て同じ結果が期待できるのなら、名医も名弁護士もいないことになる。
資格は業務の最低限の資質を要求するものであり、ベストを満たしている訳ではない以上資格者によってバラツキが出るのはやむを得ないことである。
いずれにしても、鑑定評価業務の本質は依頼者に代って客観的・公正・中立な立場で価値判断を行うものであり、限りなく委任に近い性質を有していることから、請負契約になじまないものと考えるものである。
(2006年11月/「鑑定評価業務の法律的性質について」)