不動産調査と役所の壁(法治国家日本の不思議) ~ Vol.4
2021.06.03
VOL.04 役所調査と鑑定士の調査権
不動産の鑑定評価に関する法律のどこを見ても、鑑定士の調査権に関する規定はない。
尚、弁護士法第48条では、『日本弁護士連合会は、弁護士・弁護士法人・弁護士会の指導・連絡及び監督に関する事務について、官公署その他に必要な調査を依頼することができる。』としているが、司法書士法をはじめとするその他の資格者法には、このような規定はない。
しかし、筆者の経験によれば、法律に直接の規定のあるなしにかかわらず、一般的に資格者法に基づく資格者に対する役所の対応は、鑑定士に対する対応と異なることが多い。
役所にとって、鑑定士は一般市民扱いである。
不動産調査で役所に行っても、特別扱いされることはない。
評価命令を持参して行っても、民事執行法において評価人の調査権はライフラインと固定資産税関係に限られている為、これ以外は一般市民扱いである。
したがって、都市計画法による許認可・建築基準法関係・道路法その他の行政法規による個別具体的な調査は、個人情報保護法の拡大解釈もあって、極めて困難となっている。
一般鑑定で所有者の委任状が手に入らない場合は、尚一層困難なものとなる。
所有者・占有者との交渉ができない鑑定評価は、調査の手抜きをしなければできないが、争いがある物件なら冷や汗ものである。
つくづく因果な商売と思わざるを得ない。
不動産の鑑定評価に関する法律のどこを見ても、鑑定士の調査権に関する規定はない。
尚、弁護士法第48条では、『日本弁護士連合会は、弁護士・弁護士法人・弁護士会の指導・連絡及び監督に関する事務について、官公署その他に必要な調査を依頼することができる。』としているが、司法書士法をはじめとするその他の資格者法には、このような規定はない。
しかし、筆者の経験によれば、法律に直接の規定のあるなしにかかわらず、一般的に資格者法に基づく資格者に対する役所の対応は、鑑定士に対する対応と異なることが多い。
役所にとって、鑑定士は一般市民扱いである。
不動産調査で役所に行っても、特別扱いされることはない。
評価命令を持参して行っても、民事執行法において評価人の調査権はライフラインと固定資産税関係に限られている為、これ以外は一般市民扱いである。
したがって、都市計画法による許認可・建築基準法関係・道路法その他の行政法規による個別具体的な調査は、個人情報保護法の拡大解釈もあって、極めて困難となっている。
一般鑑定で所有者の委任状が手に入らない場合は、尚一層困難なものとなる。
所有者・占有者との交渉ができない鑑定評価は、調査の手抜きをしなければできないが、争いがある物件なら冷や汗ものである。
つくづく因果な商売と思わざるを得ない。
不動産調査と役所の壁(法治国家日本の不思議) ~ Vol.3
2021.05.27
VOL.03 地図混乱地域と調査
測量関係の人にとって、地図混乱地域という用語は別に珍しくも何ともないと思われるが、鑑定士にとっては馴染みは少ない。
一般的に地図混乱地域とは、法務局に備え付けられている地図(所謂公図)と、現地の各筆の位置・形状等が著しく異なっている地域とされているが、その原因は様々で判然としない。
ところで、地図混乱地域は全国的には相当数にのぼると思われるが、以下は筆者が長い不動産調査の経験の中でも、これ程極端なケースは初めてであったので、北海道における地図混乱地域の代表として紹介する。
これまで、個人的には北海道は本州と異なり、比較的新しく開発された土地であり、歴史の古い東京・大阪等と異なり、明治政府により計画的に開拓されたことから、地図の混乱の程度は低いと考えていた。
しかし、実際に極端なケースに当たり、物件の確定・確認に困惑したのである。
・法務局備え付けの図面

・税務課の図面

以上の図面は同一の場所であるが、これを比較すると、法務局備え付けの図面は税務課の作成した図面と異なり、各筆の位置が大きくズレている他、地番の記載がない 箇所が多い・字界が異なる等、現地調査に当たって全くもって使用に耐えない図面であることが解る。
税務課の図面は、分筆図を集成し、調整したもので、現況測量を基に作成したものではない。
しかしながら、個人的には税務課の図面の方が現況にほぼ近いと思われたが、確信がないので実地調査に当たって、周辺の土地、特に国有地・市有地の実測図等を捜し、それを入手して検討した。
その結果、税務課の図面の方が確からしいと確認できたのである。
周辺土地が実測により分合筆され、その図面が登記申請に添付されているのにも拘わらず、その成果が法務局備え付けの図面に全く反映されていないのは、一体何故なのであろうか。
現在は、インターネットにより、地図の閲覧が可能となっているが、今回のこのような公図に遭遇すると、唖然とするばかりである。
日本の国土情報の整備の遅れを再認識させられたが、今回は税務課がきちんと対応していたから良かったものの、そうでなければ一体どうなっていたのやらと思う他はない。
いずれにしても、法務局にある図面が正しいという保証はないということを肝に銘じ、努々調査に手抜かりのないよう気をつけなければと思ったものである。
測量関係の人にとって、地図混乱地域という用語は別に珍しくも何ともないと思われるが、鑑定士にとっては馴染みは少ない。
一般的に地図混乱地域とは、法務局に備え付けられている地図(所謂公図)と、現地の各筆の位置・形状等が著しく異なっている地域とされているが、その原因は様々で判然としない。
ところで、地図混乱地域は全国的には相当数にのぼると思われるが、以下は筆者が長い不動産調査の経験の中でも、これ程極端なケースは初めてであったので、北海道における地図混乱地域の代表として紹介する。
これまで、個人的には北海道は本州と異なり、比較的新しく開発された土地であり、歴史の古い東京・大阪等と異なり、明治政府により計画的に開拓されたことから、地図の混乱の程度は低いと考えていた。
しかし、実際に極端なケースに当たり、物件の確定・確認に困惑したのである。
・法務局備え付けの図面

・税務課の図面

以上の図面は同一の場所であるが、これを比較すると、法務局備え付けの図面は税務課の作成した図面と異なり、各筆の位置が大きくズレている他、
税務課の図面は、分筆図を集成し、調整したもので、現況測量を基に作成したものではない。
しかしながら、個人的には税務課の図面の方が現況にほぼ近いと思われたが、確信がないので実地調査に当たって、周辺の土地、特に国有地・市有地の実測図等を捜し、それを入手して検討した。
その結果、税務課の図面の方が確からしいと確認できたのである。
周辺土地が実測により分合筆され、その図面が登記申請に添付されているのにも拘わらず、その成果が法務局備え付けの図面に全く反映されていないのは、一体何故なのであろうか。
現在は、インターネットにより、地図の閲覧が可能となっているが、今回のこのような公図に遭遇すると、唖然とするばかりである。
日本の国土情報の整備の遅れを再認識させられたが、今回は税務課がきちんと対応していたから良かったものの、そうでなければ一体どうなっていたのやらと思う他はない。
いずれにしても、法務局にある図面が正しいという保証はないということを肝に銘じ、努々調査に手抜かりのないよう気をつけなければと思ったものである。
不動産調査と役所の壁(法治国家日本の不思議) ~ Vol.2
2021.05.20
VOL.02 法務局における調査 ~ 今は昔
役所調査に当たっては、対象物件の確認・確定に必要な書類の他、価格形成要因に関する調査も欠かせない。
評価依頼が来たら、まずは法務局における調査である。
今は、建物図面・分筆図を除いて、法14条地図と称される所謂公図の閲覧や出力がインターネットでできるようになったので、随分楽になったものである。
最近不動産鑑定士になった人は知らないだろうが、昔は法務局で図面のコピーもできなかったのである。
当時の不動産登記法によれば、図面の閲覧はできるとしかされていない為、複写はできないということであった。
当然、図面の写しの交付の請求もできなかったのである。
したがって、対象不動産である土地・建物の図面は、トレース用紙(半透明の用紙)を重ね、定規を使ってトレースするしかなかったのである。
駆け出しの鑑定士の最初の仕事は、実は法務局における図面のトレースであったのである。
如何に早く・正確に・綺麗にトレース図面を作成することができるかが試されたのである。(アァ懐かしい!!)
地価公示で取引事例を確認する為、それこそ朝から晩まで法務局で 100枚単位の図面のトレースをしたことを思い出す。
不器用な人は、図面のトレースに音を上げていたようである。
いずれにしても、この貴重な経験から、要領良くサッと、しかも手数料を払っていない他の土地の分筆図も、注意されないよう気を付けて素早くトレースすることができるようになったのである。
特に、地方の法務局で調査する場合は、時間が限られるのでまさしく時間との勝負であった。
今は、法改正により、図面の写しの交付請求もできるようになったので、随分と楽になった反面、大量の図面が綴じられた簿冊から、地番順に綴じられているとはいえ、目的とする土地・建物の図面を素早く捜し出し、場合によってはその周辺も含めてトレースするという職人的な技を習得するというチャンスはなくなった。
もっとも、若手の不動産鑑定士に言わせれば、車社会の現在、駕籠かきがどうしたのっていう程度の話にしかならないと思われる。
しかし、実は大量の分筆図・公図等を見るというのは、結構勉強になったのである。
筆者もその経験があったので、技術屋でもないのに1000haにも及ぶ開発地区の地番図を作成することができたと思っている。
この地番図を作る為に、2ヶ月ばかり法務局に通い、明治時代に作製された図面やら大正時代に作製された北海道独特の植民区画図等、実に色々な図面に出会ったのである。
図面の精度の変遷や、登記簿との不突合、特に幽霊地、つまり登記はあるが地番図を照合しても図面上に特定できない土地や、脱落地といわれる地番の付されていない土地、分合筆図を集成すると形が変わる土地の存在等、実に貴重な体験をさせてもらった。
そのお陰で図面の取扱いにも慣れさせてもらったが、コピーにより簡単に図面が手に入るようになった現在、図面について深く考える機会が少なくなっているような気がする。
役所調査に当たっては、対象物件の確認・確定に必要な書類の他、価格形成要因に関する調査も欠かせない。
評価依頼が来たら、まずは法務局における調査である。
今は、建物図面・分筆図を除いて、法14条地図と称される所謂公図の閲覧や出力がインターネットでできるようになったので、随分楽になったものである。
最近不動産鑑定士になった人は知らないだろうが、昔は法務局で図面のコピーもできなかったのである。
当時の不動産登記法によれば、図面の閲覧はできるとしかされていない為、複写はできないということであった。
当然、図面の写しの交付の請求もできなかったのである。
したがって、対象不動産である土地・建物の図面は、トレース用紙(半透明の用紙)を重ね、定規を使ってトレースするしかなかったのである。
駆け出しの鑑定士の最初の仕事は、実は法務局における図面のトレースであったのである。
如何に早く・正確に・綺麗にトレース図面を作成することができるかが試されたのである。(アァ懐かしい!!)
地価公示で取引事例を確認する為、それこそ朝から晩まで法務局で 100枚単位の図面のトレースをしたことを思い出す。
不器用な人は、図面のトレースに音を上げていたようである。
いずれにしても、この貴重な経験から、要領良くサッと、しかも手数料を払っていない他の土地の分筆図も、注意されないよう気を付けて素早くトレースすることができるようになったのである。
特に、地方の法務局で調査する場合は、時間が限られるのでまさしく時間との勝負であった。
今は、法改正により、図面の写しの交付請求もできるようになったので、随分と楽になった反面、大量の図面が綴じられた簿冊から、地番順に綴じられているとはいえ、目的とする土地・建物の図面を素早く捜し出し、場合によってはその周辺も含めてトレースするという職人的な技を習得するというチャンスはなくなった。
もっとも、若手の不動産鑑定士に言わせれば、車社会の現在、駕籠かきがどうしたのっていう程度の話にしかならないと思われる。
しかし、実は大量の分筆図・公図等を見るというのは、結構勉強になったのである。
筆者もその経験があったので、技術屋でもないのに1000haにも及ぶ開発地区の地番図を作成することができたと思っている。
この地番図を作る為に、2ヶ月ばかり法務局に通い、明治時代に作製された図面やら大正時代に作製された北海道独特の植民区画図等、実に色々な図面に出会ったのである。
図面の精度の変遷や、登記簿との不突合、特に幽霊地、つまり登記はあるが地番図を照合しても図面上に特定できない土地や、脱落地といわれる地番の付されていない土地、分合筆図を集成すると形が変わる土地の存在等、実に貴重な体験をさせてもらった。
そのお陰で図面の取扱いにも慣れさせてもらったが、コピーにより簡単に図面が手に入るようになった現在、図面について深く考える機会が少なくなっているような気がする。